風船だけじゃない。ヘリウムガスの様々な用途
ヘリウムは、水素と同じく空気より比重が軽く、水素と違って引火性がない安全な希ガスです。
「風船(バルーン)に入れるガス」と言えば、今では一般的にヘリウムを指すようになりました。しかしヘリウムの用途は、風船に入れるだけではありません。意外と知られていませんが、ヘリウムは医療や通信ネットワークなど、さまざまな場所で私たちの暮らしに役立っています。
ここでは、ヘリウムのさまざまな用途についてご紹介しましょう。
何が特別なの? ヘリウムの性質
ヘリウムの性質と言えば、「空気より軽い」と答える人が多いかと思います。「軽さ」は、ヘリウムの最大の特徴です。
また、ヘリウムは非常に分子が小さいので、液体になるための引力が弱く、極めて低い温度(-269℃)まで冷やさないと液体になりません。原子の振動が最も小さくなる絶対零度(-273℃)に近い超低温でも液体のままなのは非常に珍しく、似たような性質の水素でも-253℃で凍ってしまいます。
- 軽い
- 分子が小さい
- 超低温で液化
これがヘリウムの3大特徴。加えて、「無味」、「無臭」、「無色」、「無毒」という性質が、ヘリウムの用途を多様にしています。
MRI検査に不可欠?!病院で使われるヘリウム
「超電導」という言葉を聞いたことはありますか?金属の抵抗が限りなくゼロに近くなる状態です。強力な磁場を得るためには、超電導状態を作り出すことが不可欠。そして、超電導状態を作り出すためには、磁場を絶対零度近くまで冷却する必要があります。
医療現場で使われるMRIは、強力な磁場を使って人間の体内の様子を画像化します。
このMRIにも、液体ヘリウムが不可欠。装置の中にある超電導電磁石を冷却し続けるために使われています。
光ファイバーの製造にもヘリウムが使われています
MRIや超電導装置には液体ヘリウムが使われますが、気体のヘリウムも産業ガスとして、さまざまな用途に利用されています。
例えば、光ファイバーの製造。光ファイバーは、透明で均一に仕上げる必要がありますが、そのためには原料となるガラスをできるだけ不純物のない状態で焼成しなければなりません。
「無色」、「無味」、「無臭」、「無毒」で引火性の無いヘリウムガスは、「雰囲気ガス」(酸素の代わりに充填する気体)として、ガラスを燃焼する際に使われます。
また、光ファイバーの焼成だけでなく、精密機械を溶接する時にも、「雰囲気ガス」として使われています。
コンピューターにもヘリウムが使われています
コンピューターのハードディスクに使用される半導体。その製造プロセスにも、ヘリウムが使われています。
半導体デバイスは、基盤となるシリコンウェハーの上にさまざまな熱処理を施しながら作って行きますが、次の工程に移る前にウェハーを冷却する必要があります。ヘリウムは、このウェハーの熱をすばやく奪う「冷却用ガス」として利用されています。
さらに近年では、ヘリウムを充填したハードディスクが登場しています。空気よりも密度の低いヘリウムを充填することで、電気消費量を削減できるだけでなく、容量の増加にも成功しました。コンピューターの分野で、ヘリウムの重要性は増加し続けているのです。
ロケットの発射にも 用途多彩なヘリウム
ヘリウムは、宇宙ロケットの発射にも使われています。ロケットの発射の推進剤としては液体酸素と液体水素が使われますが、これらの液体を押し出すガスとして、ヘリウムが使われています。
-269℃で液化するヘリウムは、-253℃の液体水素に触れても凍らずに圧力をかけることができます。また、液体になりにくいヘリウムは、液体酸素や液体水素に溶けないので、酸素と水素の純粋な反応を引き出すことができます。
ヘリウムは、風船を膨らませるだけでなく、さまざまな場面で活躍しています。ヘリウムのすぐれた能力を知ると、ふわふわと宙に浮く風船がちょっと違って見えそうですね。